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■『戦旗』1642号(9月5日)4-5面

 
現代資本主義の格差拡大を許すな
 今こそ、労働者階級の反帝決起を

                               内田加奈子
 

はじめに

 資本主義の行き詰まりが指摘され始めてから久しいが、時と共にますます破綻の度合いを深めている。GDP成長率の推移で見ても、一九六〇年代の6%前後の成長率から一九九〇年代には4%を下回るようになり、二〇一〇年代には2%の成長率に鈍化している。市場は飽和状態が見えはじめ、ゼロ金利でも投資需要は冷え込んだまま、金余りの状態が続いている。投資の拡大が進まず、投機=マネーゲームが世界を席巻している。一握りの金持ちだけが資産を増やし、格差は局限的に拡大している。


●① コロナでも戦争でも大企業と富裕層は資産を拡大

 二〇一九年から世界中を覆ったコロナパンデミックは今も続いているが、日本でもコロナウィルスが本年五月から感染症法上の二類から五類に格下げされた。各地にあった無料の検査所はなくなり、毎日全数報告されていた感染者数は医療機関からの週単位での報告のみになっている。公費で賄われていた感染者の医療費は自己負担の保険診療となり、行動制限もなく、感染者の行動も自己判断である。経済活動や旅行・飲食などコロナパンデミック前と同様の状態に戻っているが、身の回りの感染者は継続的に発生し続けている。行政機関の強権的な「行動制限」を是とするものではないが、結局のところ経済優先、公的負担はお断り、後は自己責任で、ということでしかない。
 コロナパンデミックの四年間で、日本の公衆衛生や医療機関の脆弱さ、また政府や行政の対応力のなさ、人命よりも経済活動優先の混乱ぶり、などが露わになった。
 コロナパンデミックで労働者、特に非正規雇用の労働者は職を失い、収入が激減し貧困化したが、その中でも超富裕層は資産を増やしている。図①は野村総合研究所が発表している日本の富裕層の二〇一九年と二〇二一年のデータである。
 超富裕層の純金融資産保有額は、8・2%(九七兆円から一〇五兆円)増加、富裕層は9・7%(二三六兆円から二五九兆円)増加した。両者を合わせると合計三一兆円(9・3%)増加している。株式などの資産価格の上昇により、富裕層・超富裕層の保有資産額が増大したことに加え、金融資産を運用(投資)している準富裕層の一部が富裕層に、そして富裕層の一部が超富裕層に移行したためと分析されている。
 個人だけではない。企業も内部留保を増やし、二〇二一年度企業の内部留保は前年度比6・6%増の五一六兆四七五〇億円で、二〇二〇年度の四八四兆三六四八億円から三二兆一一〇二億円増加している。(図②)


●② 貧困はさらに深まっている

 コロナパンデミックでもウクライナ戦争でも世界中で低所得層が甚大な被害を受けている。失業、十分な医療が受けられない、エネルギー価格の高騰、穀物価格の高騰、急激なインフレは貧困層を直撃し、飢餓を増加させた。
 日本でもコロナパンデミックで多くの労働者が仕事を奪われた。小学校や保育園・幼稚園の一斉休校により子育て世代の特に女性労働者が仕事を休まざるを得なくなった。飲食業や観光業など対面で人に接する仕事が大きな制限を受け、これらの仕事に多い非正規雇用労働者の失業が増加した。
 一方で、同じ対人労働でも介護や医療、スーパーやコンビニなど生活に欠かせない仕事では、感染の不安におびえながら、子どものケアや介護のために休まざるを得ない労働者の分まで過重に働かざるを得ない事態となった。図③は完全失業者数の前年同月増減のグラフだが、二〇二〇年四月からの急増に一斉休校や行動制限の影響がはっきり見て取れる。
 また、「完全失業者数」には現れない失業状態が大きな問題になった。各地の労働相談でも、週の労働時間が二〇時間に満たない非正規雇用労働者が雇用保険から除外されているために失業保険給付からも雇用調整助成金からも排除されている問題や、シフトが大幅に減らされて生活が立ち行かないなど実に切実な相談が寄せられた。このように制度のはざまで使い捨てにされた非正規雇用労働者(その多くが女性)の苦境は「完全失業者数」のグラフには現れない。女性に集中した苦境と貧困は、コロナパンデミックではじめて社会問題化された。コロナ禍で女性の自死率が急増し、非正規雇用労働者への差別的処遇に対するいくつもの裁判が闘われた。しかし、その解決への道のりは見えてこないだけでなく、“スキマバイト”の喧伝にみられるように、ギグワークやフリーランスなど、より一層不安定で資本に都合の良い働かせ方への誘導が強まっている。
 労働者の下層半分はますます貧困で不安定な仕事を強制されている。


●③ 女性に集中するしわよせ

 図③の完全失業者数では女性の失業者数が男性より少ないが、図④の就業者数の推移グラフを見ると、二〇二〇年三月から四月で、男性の就業者数が三九万人減少したのに対して女性の就業者数は七〇万人減少し、減少幅は女性の方が圧倒的に大きい。雇用保険に加入していないことや保育・介護のためにすぐに就職できる状態にないなど、完全失業者にカウントされない隠された失業が女性労働者にのしかかっていることがわかる。
 図⑤は雇用者数の前年同月差を雇用形態別に表しているが、就労者数の減少が非正規雇用労働者に集中しており、特に女性雇用者数の減少はほぼすべてが非正規雇用労働者である。
 三〇年間賃金の上がらない日本の雇用劣化は、家族総出で働いて、あるいは寸暇を惜しんで複業をこなすことで、やっと生活を維持するレベルになっている。家族のケアや学業のためにアルバイトや短時間労働を選ばざるを得ない女性や学生の働き方は、もはや家計補助や小遣い稼ぎではなく、細くなった家計の大黒柱を支える欠くことの出来ない重要な収入源になっている。コロナ禍で明らかになったのは、非正規雇用の中で労働時間の管理も雇用者責任もうやむやのうちに捨て置かれ、社会保険料の負担を免れるための短時間労働、必要な時だけ働いて仕事が減ったらすぐに休ませられるシフト労働、一切の雇用責任を除外するための請負契約など、「働き方」の総崩れが、「緊急事態」に対してどれほど脆弱な働き方であるのかという事だった。資本に都合の良い働かせ方を野放しにしていたら、生存すら危うくなる。
 さらに二〇二二年以来の物価の急騰は、ぎりぎりの生活を余儀なくされている低所得層を直撃した。実質賃金は下がり続けている(図⑥)。低所得層はコロナ禍の打撃から回復する間もなく、貯蓄残高は減り続け、生活費のための借金が増えている。
 昨年一〇月に最低賃金が改定されたが、物価上昇には追い付かない水準で、昨秋以来再改定を求める声が全国で巻き起こった。多くの地方で各地の最低賃金審議会や労働局に対して再改定の申入れが相次いだ。これ以上耐えられないという切実な低所得層の実情を反映したものである。


●④ 物価高騰に追いつかない最低賃金と地方格差に続々と反乱が

 今年も最低賃金が各地で決定されている。中央最低賃金審議会の目安が、従来の四ランク制から三ランク制に変更され、地方格差が改善されるのではないかとの期待も持たれたが、七月に発表された目安はAランク四一円、Bランク四〇円、Cランク三九円の引上げというもので、従来通りランク制によって都市部と地方の格差を広げるものでしかなかった。各地方の最低賃金審議会ではこれに抵抗する動きが巻き起こった。Cランクの佐賀県で八円、山形県・鳥取県で七円、青森県・長崎県・熊本県・大分県で六円、秋田県・宮崎県・鹿児島県・高知県で五円、沖縄県で四円と目安を大幅に超える答申が行われている。Bランクでも島根県で七円、愛媛県で四円、福井県で三円など従来にない動きが起きている。まさに地方の反乱と呼べる状況だ。隣接県との最低賃金の差が労働者の流出につながり、最低賃金の低い地方で人口流出が止まらない。地方の過疎化による衰退を招いていることへの抵抗と言える。


●⑤ 日本は貧困との闘いで世界に大きく遅れている

 今年七月に発表された「国民生活基礎調査」(厚労省)によれば、二〇二一年の相対的貧困率は15・4%で二〇一八年調査(15・7%)から0・3%改善しているが、国際比較でみると、OECD加盟三五カ国中で日本より貧困率が高いのはほんの数カ国で、いわゆる先進国の中では最下位である。数年前まで日本より貧困率が高かった米国や韓国にも追い越されている。日本は、貧困対策で世界に後れを取っており、まさに「貧困大国」だ。
 相対的貧困率は等価可処分所得が中央値の半分(一二七万円)に満たない世帯の割合を示している。ちなみに、子どもの貧困率も二〇一八年調査よりは2・5ポイント減少し11・5%、ひとり親世帯は3・8ポイント減少し44・5%となったが、依然として高い数字である。六・五人に一人が貧困で、ひとり親世帯の約半分、子どもの九人に一人以上が貧困状態にある。
 貧困解消の対策には最低賃金の大幅引き上げによる賃金の底上げが有効な方法の一つであるが、最低賃金運動が目標にしてきた一五〇〇円/時以上の実現には程遠い現状である。「中小企業の支払い能力」が理由にされている。最低賃金の大幅引き上げの実現に中小企業支援が必要なことは言うまでもないが、最低賃金近傍の労働者の存在によって利益を得ているのはむしろ大企業だ。二〇二二年『東洋経済』に掲載された「非正規雇用が多い企業ランキング」では、イオンで約二五・三万人、日本郵政一四・七万人、トヨタ自動車八万人、セブン&アイHD七・六万人、ファーストリテイリング六・三万人、ゼンショーHD五・一万人など、名だたる大企業が非正規雇用労働者の低賃金・低労働条件によって利益を生み出していることがわかる。すべてが最低賃金近傍というわけではないが、日本郵政にみられるように、非正規雇用労働者の初任給を最低賃金プラス〇〇円と決めているところもある。また、正社員でも高卒初任給は最低賃金レベルである。
 冒頭に述べた富裕層の増加の一方で、貧困が深まっている。所得階層別の世帯数は二〇一九年と二〇二二年で比較すると、世帯所得三〇〇万円以下の層が増えている一方で、二〇〇〇万円以上の層も増えている。
 図⑦は短時間労働者の時間給の階級分布を二〇〇三年と二〇二二年で比較すると、二〇〇三年では広い金額帯で分布がなだらかに広がっていることがわかるが、二〇二二年では最低賃金の加重平均九六一円をやや超えたあたりをピークとして最低賃金近傍に集中している。時給で一一〇〇円未満の労働者数は短時間労働者の半分を超えている。労働者全体では約三割が最低賃金に影響を受けている。それほどに低賃金労働者が増えているのだ。仮に時給一〇〇〇円で法定労働時間働くと年収は約二〇〇万円となり、ワーキングプアと呼ばれる水準でしかない。


●⑥ 格差拡大と闘おう

 大企業や金持ち優遇の税制が格差を拡大し続けている。例えば所得税は一九八四年までは最高税率が75%(所得八〇〇〇万円以上に対して)だったが現在は45%(所得四〇〇〇万円以上)になっている。さらに高所得者は株式配当が所得の大半を占めているが、株式配当への課税は約20%にしか過ぎない。所得に占める社会保険料負担割合も年収二〇〇万円で14・2%、年収一一〇〇万円で14・43%となり、以降年収が増えると減少する。こうした金持ち優遇政策のなかで、所得の再配分どころかどんどん格差が大きくなっている。
 こうした金持ち・大企業優遇政策は日本だけではない。一時期騒がれたタックスヘイブンは今も富裕層・大企業の税金のがれに使われ続けている。
 「世界不平等レポート」(不平等研究所が発表。トマ・ピケティら経済学者が調査したもの)によれば、資産上位の1%の人々が世界の富の38%を所有しており、上位10%の人々では76%にも及ぶ。世界中の下位50%が所有する総資産は2%にすぎない。
 不平等研究所は格差拡大に対して不当な税制を改革するよう訴えている。世界の労働者は格差と貧困、富裕層の独裁的な社会運営に激しく抗議し続けている。フランスの年金デモ、インフレに対する各国のストライキ、不当な労働条件(長時間労働、過重労働、低賃金、労働環境、差別)に対する抗議の闘いは、労働者と市民が結びついた社会的な闘いとして広がり続けている。激しい労働組合弾圧に直面する韓国でも労働者は反撃に打って出ている。世界の闘いから学び、世界の労働者市民とつながりこの不平等な世界を変革する闘いに立ち上がろう。


●⑦ 格差と貧困を拡大し続ける資本主義は戦争に向かう

 地球環境を破壊して資源を収奪し続ける資本主義の無政府的な生産が、環境汚染や地球の温暖化をまねき、気候の激変が荒々しく世界を覆っている。資源の有限性にも警鐘が鳴らされている。このままいけば人類と地球は共存できなくなるという危機感が広まっている。しかし、資本の運動は止むことなく利益を追い求め続けている。
 戦争は、過剰生産恐慌に対して破壊と大量消費によって資本主義の行き詰まりをリセットする役割を果たしてきた。
 いま、資本主義の行き詰まりが誰の目にも明らかになっている時代に、その延命のために世界中で資源や市場をめぐる争いが激しさを増し、ロシアのウクライナ侵攻をはじめ、各地で武力をもっての対立が続いている。先進諸国が軍拡を競い合い、ブロック化を進め、世界中で軍事緊張が高まっていることは偶然ではなく、再び同じ誤りを繰り返そうとしているのだ。
 今年一月、アメリカの科学雑誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ」は「終末時計」が「残り一分三〇秒」と発表した。「終末時計」は、一九四七年に「人類最後の日」まで「残り七分」から始まり、東西冷戦の終結後には「残り一七分」まで戻されが、今年、最も短くなった。ロシアのウクライナ侵攻における核兵器使用の恫喝や原発への攻撃、核保有国が「核抑止論」を前面に押し立てて「核の傘」の元への編入を進めていること、NPT(核拡散防止条約)の停滞が大きな理由となっている。さらに、エネルギー危機で気候危機への取り組みが弱まっていることも影響しているという。
 私たちは、このような誤った歴史の繰り返しを絶対に許してはならない。生存をかけて闘いを組織しよう。

 


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